市場動向2026-07-08 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

時間外労働規制の猶予終了は、建設業に何をもたらしたのか — 「人を増やす」から「仕組みで補う」への転換

この記事の要点

「規制が厳しくなったのは分かるんですが、それが自分の転職とどう関係するんですか」。求職者の方から、こう聞かれることがあります。率直に言うと、この規制は建設業で働く人のキャリアに、この数年で最も大きな影響を与えている変化の一つだと僕は考えています。

0. 前提 — 建設業だけに与えられていた「猶予」が終わった

誤解がないように申し上げると、時間外労働の上限規制自体は他業種にはすでに適用されていたものです。建設業は工事の特殊性(天候・工期の連続性・多重下請け構造)を理由に、一定期間の適用猶予が設けられていました。この猶予期間が終了し、他業種と同水準の残業上限が本格的に適用される局面に入っています。

この変化は、現場で働く一人ひとりの労働時間だけでなく、企業の経営そのものに直結する話になっています。

1. 猶予終了がもたらす一次的な影響 — 「これまで通り」が通用しなくなる

これまで工期のしわ寄せは、現場の残業でカバーされてきた側面がありました。猶予期間の終了により、この吸収弁が使えなくなります。結果として、同じ工期・同じ人員のままでは、残業上限を超えてしまう現場が各社で表面化しています。

1-1. 僕が面談で聞く限り、企業側の危機感はこの1〜2年で急速に強まっています。単なるコンプライアンス対応ではなく、罰則付きの規制であるという緊張感が経営層に強くあります。

1-2. この緊張感が、人員を増やす以外の方法、つまり仕組みによる生産性向上への投資判断を後押ししています。

2. なぜ「人を増やす」だけでは解決しないのか

建設業界は慢性的な人手不足にあり、単純に採用人数を増やして労働時間を分散させるという解決策は、現実的に取りにくい状況にあります。そこで各社が着目しているのが、限られた人員のままで生産性を上げる、という方向です。

紙の日報や電話・FAXでのやり取りに費やされていた時間をデジタル化で削減する、工程を平準化して手待ち・手戻りを減らす、多能工化で人員配置の柔軟性を高める。こうした取り組みが、生産性向上プロジェクトという形で立ち上がっています。

3. 生産性向上PMというポジションの誕生

この文脈で新しく生まれているのが「生産性向上PM」というポジションです。工程管理・原価管理・労務管理を横断して見渡し、どこにムダな時間が発生しているかを特定し、デジタルツールや業務フローの見直しで解消していく役割です。

3-1. このポジションの多くは、企業にとっても初めての試みであり、社内に前例がないケースがほとんどです。前例がないということは裏を返せば、担当者自身がやり方を作っていける裁量の大きいポジションだということです。

3-2. 一方で、前例がないゆえに何をどう評価すればよいか手探りの企業も多く、担当者には成果を数字で語る力も求められます。

4. どんな人がこのポジションに向いているのか

僕がこれまで支援してきた方々を見ると、現場監督や施工管理として「手待ち時間」「手戻り」に日々ストレスを感じてきた人ほど、このポジションで力を発揮しています。理由は明快で、改善すべき課題を肌感覚で知っているからです。

逆に、業務改善の型やITツールの知識は、着任後にキャッチアップできる部分が大きい。「現場の痛みを知っている人が仕組みを学ぶ」方が、「仕組みを知っている人が現場の痛みを後から学ぶ」よりもスムーズに進む、というのが僕の実感です。

5. コラム — 生産性向上PMに抜擢されたある方の話

僕が面談した30代後半の男性は、地場の総合建設業で10年、施工管理を担当してきた方でした。残業規制の本格適用を前に、会社が急きょ「生産性向上担当」というポジションを新設したとき、彼は現場出身で改善提案を積極的に出していたことから抜擢されました。

最初の半年は、何から手をつければよいか分からず手探りだったそうですが、「まず現場の日報をデジタル化して、集計にかかっていた月20時間を削る」という小さな成果を積み重ねるうちに、経営会議で報告する立場になっていったといいます。

彼が語っていた言葉が印象的でした。「規制は縛りだと思っていたけど、自分にとってはキャリアの入口になった」。この視点の転換こそが、今このポジションを検討する人に伝えたいことです。

6. 今後さらに需要が増える3つの領域

6-1. 工程の見える化。誰がどこで何をしているかをリアルタイムで把握し、手待ち・重複作業を減らす取り組みです。

6-2. 多能工化の推進。特定の職種に業務が集中しないよう、教育・配置の仕組みを整える取り組みです。

6-3. 労務管理システムの導入。勤怠と工程を連動させ、残業の予兆を早期に検知する仕組みです。規制対応と直結するため投資優先度が高い領域です。

7. 転職市場から見た「今」というタイミングの意味

猶予期間の終了直後である今は、多くの企業がこの課題に本気で向き合い始めたばかりのタイミングです。市場に「型」がまだ確立していないからこそ、参入した人が型を作る側に回れるチャンスがあります。

7-1. 数年後、このポジションの採用要件が固まってしまえば、経験者採用が中心になり参入のハードルは上がります。今はその前段階だと僕は見ています。

8. 実務でまず着手すべき3つのステップ

8-1. 現状把握。まずは自分の現場、あるいは自社全体で、どこにどれだけの残業が発生しているかを可視化することから始めます。感覚ではなく数字で把握することが、その後の説得力を大きく左右します。

8-2. 小さな改善の実行と実績化。いきなり全社的な仕組みを変えようとせず、まずは一つの現場、一つの工程で小さな改善を試し、その効果を数字で示します。この小さな成功体験が、社内での信頼獲得と、転職市場での実績の両方につながります。

8-3. 横展開の提案。小さな成功を、他の現場や部署にも展開できないかを提案する段階に進みます。ここまでできると「生産性向上を仕組み化できる人材」として、社内外から高く評価されるようになります。

9. この分野で注意したい落とし穴

生産性向上PMというポジションは新設されたばかりであることが多く、評価制度や上長の理解が追いついていないケースもあります。転職や社内異動を検討する際は、経営層がこの取り組みにどれだけ本気で投資しているかを、面談や面接の中で確認しておくことをお勧めします。「担当者一人に丸投げ」の状態だと、成果を出す前に疲弊してしまうリスクがあるためです。

10. 他業種の先行事例から学べること

製造業や物流業界では、建設業より一足早く残業規制への対応を進めてきた歴史があります。僕がこれまで見てきた範囲では、これらの業界に共通していたのは「規制対応を守りの施策で終わらせず、生産性向上という攻めの投資に転換できた企業ほど、結果的に人材の定着率も高まった」という傾向です。建設業界でも同じ構図が起きつつあると僕は感じています。

10-1. 規制を「やらされ仕事」として捉える企業では、担当者のモチベーションも上がりにくく、施策も表面的なものに留まりがちです。

10-2. 一方で、規制対応を「働き方を良くするチャンス」と位置づけて投資する企業では、担当者に裁量が与えられ、結果として優秀な人材が集まりやすくなる傾向があります。転職先を選ぶ際は、この違いを面接で見極めることをお勧めします。

(結論)規制は制約であると同時に、キャリアの入口になり得る

まとめます。①時間外労働規制の猶予終了により、建設業は仕組みでの生産性向上を迫られている。②これにより生産性向上PMという新しいポジションが各社で生まれ始めている。③現場で改善意欲を持ってきた人ほど、このポジションで力を発揮しやすい。

率直に言うと、規制対応というと後ろ向きな印象を持たれがちですが、僕はむしろキャリアの好機だと捉えています。まずは15問の適性診断で、自分がどの建設PMタイプに近いかを確かめてみてください。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 時間外労働規制の猶予期間が終了すると何が変わりますか

残業時間の上限規制が他業種と同様に本格適用され、違反企業には罰則が科されるようになります。工期を守りながら残業を抑えるには、人を増やすだけでなく仕組みで生産性を上げる必要が生じます。

Q. 生産性向上PMとはどんな仕事ですか

施工管理のデジタル化・工程の平準化・多能工化の推進など、限られた労働時間の中で工期と品質を両立させる仕組みづくりを担う仕事です。現場経験とプロジェクト管理の両方が求められます。

Q. 未経験からでも生産性向上PMになれますか

なれます。多くの企業がこのポジションを新設したばかりで、社内に前例がないケースが多いため、現場理解と改善意欲があれば実務未経験でも抜擢されるチャンスがあります。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

この記事を、eBookで持ち帰る。 本記事をスライド形式のPDF(16:9・全17ページ)に再構成しました。お名前とメールのご登録だけで、その場でダウンロードできます。

いま自分がどの建設PMタイプに近いか、診断で確かめる

15問の適性診断で、あなたの現場経験がどの建設PM職域に接続するかが分かります。

適性診断をやってみる → キャリア面談をする →

あわせて読む